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米国雇用統計の見方

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雇用統計構成の2つの調査

 雇用統計は、調査方法が違う2つの調査から構成される。家計調査(Household Survey)と事業所調査(Establishment Survey)をベースにしており、両方ともBLS(労働省労働統計局)が作成している。

 家計調査は、毎月12日を含む1週間に約6万の生産年々人口世帯を対象に商務省がヒアリング調査を行い、失業率の元になる。
 事業所調査は、農業を除く約40万の事業所を対象に毎月12日を含む週についての給与支払い調書を各州当局の協力の下に集計しており、非農業部門雇用者数の元になる。調査対象のうち、40%程度は中小企業で構成されている。結果は、毎月12日を含む週の3週間後の金曜日(通常翌月第一金曜日)に発表される。以下、ニュースなどで出てくる2つの指標「非農業部門雇用者数」と「失業率」を解説する。

非農業部門雇用者数

 非農業部門雇用者数(Non-farm Payrolls)は、農業部門以外で、フルタイム又はパートタイムの労働に従事し、12 日を含む賃金支払期間に労働への対価が支払われた人数であり、派遣労働者や有給休暇中の労働者も含まれる。つまり、1時間でも働いて給料をもらえば雇用者となり、パートタイムの労働者が無給休暇でその週に給料を貰っていなかったら就業状態が続いていても雇用者数から除外される。
 ストライキ参加者や病休者も、雇用統計調査期間に一度でも労働報酬を受けていれば雇用者数に含まれる。一方、経営者や自営業者、ボランティア、軍人等は雇用者数から除外される。また、2か所以上の事業所から給料を貰う場合はダブルカウントされる。副業時代には少し見直しが必要だろう。
 雇用者数が増加していれば米景気は良い、減っていれば悪いということ

非農業部門雇用者数の中身の見方

 非農業部門雇用者数は鉱業・建設・製造業、民間サービス産業、政府部門の三つに大きくに分類され、更に業種別や州別にデータが取れる。統計元データが違う失業率と動きが異なる場合、一般的にはサンプル数の多い雇用者数を見ることになるし、発表直後の市場の動きは雇用者数に反応することが多い。また、製造業に注目すべきという本もあるが、米国経済はサービス業中心なので、非製造業も見なければいけないと思う。

雇用面から個人消費の動向を考える

 また、雇用面から個人消費の動向を見る上では、①小売、②教育・医療、③娯楽・宿泊などの家計需要に関連する業種に注目したい。以下が、①~③までの雇用者増減の合計とGDP(実質経済成長率)の個人消費支出項目(GDPの7割程度)の推移であるが、相関が高く、雇用統計の方が先にでるので、GDPの予想に有用である。

労働省労働統計局データよりTbridge作成

 

労働市場全体の先行指標としてのサブセクター「人材派遣業」

労働市場全体の先行指数として「人材派遣業」の雇用動向を見ることがある。雇用調整は正社員(フルタイム)の雇用が硬直的であるため、日本と同じく米国でも人材派遣部分の調整が先に行われる。

労働省労働統計局データよりTbridge作成

インフレと個人所得分析の貴重なデータ源

事業所調査では非農業部門の雇用者数に加え、①時間/週当たり平均賃金、②週平均労働時間、③総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)などのデータが発表されている。①はインフレ動向を、③と①で労働を通じた個人所得を分析する元となる。

その他の特徴

 また、天然資源・鉱業は原油安⇒シェール生産減⇒雇用者数減となりやすく、また、ハリケーンなどでテキサス州等が壊滅的被害を受けた場合は減少する傾向にある。また、近年では年末商戦時期にAmazon等での購買が増加するため11月にパートタイムで雇用増となる運輸・倉庫(特に、配達・メッセンジャー)が年初に減少する傾向がある。

統計上の注意点

 非農業部門雇用者数は速報発表後2 ヵ月間にわたり、追加的な情報を反映させる形で遡及改定される。しばしば大幅な改定が行われるため、足元の雇用情勢を判断するためには、当月の非農業部門雇用者数の変化のみならず、過去2 ヵ月分の改定幅も合わせて見ることが重要である。したがって、過去3か月の増減の合計値の推移を見ることも有用である。

失業率

 失業率(Unemployment Rate)は、「失業者÷労働力人口×100」で定義され、年齢別、性別、人種別、学歴別、地域別等のデータが集計されている。家計調査では、生産年齢人口が労働力人口と非労働力人口に分類され、さらに労働力人口が就業者と失業者に分類される。労働力人口を生産年齢人口で除したものが労働参加率、失業者数を労働力人口で除したものが失業率となる。

6種類の失業率

 統計局は対象範囲が異なる6 種類の失業率(U1~U6)を発表している。
 この中で最も広義の失業率を表すU6 はイエレン元FRB議長時代に労働市場のスラック(働く意思や能力があるにもかかわらず仕事がみつからない人が非常に多い状態)が続いている場合は高止まりすることから、リーマンショック以降は労働市場全体を見る上で重視されている。つまり、経済的理由によるパートタイムをカウントする意味は、不況前の仕事(正社員)に戻れていない人が多いことを反映し、実質的な経済活動は元にもどっていないと言える。
 なお、通常失業率といえばU-3でILO(国際労働機関)が定める全世界共通の失業率指標である。

U-1:失業期間が15 週間以上/労働力人口
U-2:(非自発的離職者+臨時雇用の期間満了者)/労働力人口
U-3:完全失業者/労働力人口 ⇒ヘッドライン失業率
U-4:(完全失業者+求職意欲喪失者)/(労働力人口+求職意欲喪失者)
U-5:(完全失業者+縁辺労働力)/(労働力人口+縁辺労働力)
U-6:(完全失業者+縁辺労働力+経済的理由によるパートタイム)/(労働力人口+縁辺労働者)
※「縁辺労働力」とは「過去12 ヵ月間に求職しており勤労可能だったが、4 週間は求職しなかった者」で潜在労働者。

労働省労働統計局作成月次レポートより抜粋

まとめると、ニュースで出てくるのは、U3の失業率。でも、実態の雇用情勢を反映しているのはU6だったりするのでそれもチェックしましょう。だって、失業状態じゃなくても昔正社員だった人がパートになっていればまだ状況改善してるって言えないですよね(U6はそれを反映)。

労働参加率

 労働参加率(Labor force participation rate)は2000 年頃をピークに低下が続いている。

労働省労働統計局データよりTbridge作成

労働参加率の主な決定要因は人口動態(構造要因)と景気サイクル(循環要因)だが、前者による所が大きい。ベビー・ブーマーの高齢化で最高齢層(55 歳以上)の16 歳以上人口に占める比率が上昇する一方、35~44 歳人口の比率は低下している。米国の家計調査は生産年齢人口(15~64 歳)ではなく「16歳以上人口」を対象としているため、労働参加率の低い高齢者が人口に占める割合が上昇すると、全体の労働参加率は押し下げられることになる。

労働省労働統計局データよりTbridge作成

 つまり、労働参加率が低下している場合、失業率をテクニカルに押し下げる為、その場合は失業率の低下は単純に雇用市場が改善しているとは言えない

雇用統計の予想方法

 雇用統計自体が速報性の高いデータなので、それを予想することは難しいのだが、①失業保険申請件数、②ADP雇用報告、③ISM非製造業の雇用項目、の3つが先行指標として機能し得る。

失業保険申請件数

 失業した人が失業保険給付を初めて申請した件数を集計したもので、給付事務を取り扱う州事務所から労働省に報告され、季節調整されて発表される。失業者に対する保険受給者数は50%以下と低いことや天候等でのぶれも多い。したがって、景気先行指標としては4週の移動平均などを使ってトレンドを追う場合がある。
 雇用統計の非農業部門雇用者数増減の予想に使う場合は、12日を含む週の失業保険申請件数を使うことになる。雇用統計はプラスマイナスのネットの雇用者数に対して、保険申請件数は失業者数なので失業状態から回復した数だけ両者にはズレが生じるため、景気回復時には先行指標としての有用性が落ちる。ただ、大金景気後退局面等では有用である。

ADP雇用統計

 雇用統計の2営業日前に発表になる。ADP社は米国の給与計算アウトソーシング会社で全米約50万社の計算代行を行う。12年11月に調査方式が変更され訴求改定された過去データは雇用統計の雇用者数増減との相関が高くなった。
 しかし、遡及前の数値、つまり、雇用統計の2営業日前に出てくる数値は引き続き相関が低いので、あまりあてにできない

ISM非製造業指数の雇用項目

 全米供給管理協会が発表するISM指数の内、サービス業のウェートが高まっている状況なので、近年は非製造業の雇用項目が雇用統計の雇用者数増減予測に有用である。3つの手法の中では、最も使いやすいといえる。
 ただし、月初3営業日目に発表されるので、20年6月のように月初2営に雇用統計が出てしまう場合は、雇用統計の後になってしまう場合があることが難点である。

まとめ

 ニュースなどで出てくる2つの指標「非農業部門雇用者数」と「失業率」は、調査方法も違うので、ちぐはぐな結果になることもあるが、どちらかというと非農業部門雇用者数を重視する。そして、その数値自体速報性が高く、GDPの個人消費項目の予測に有用である。雇用統計の更に先行指標としては、3つほど手法が考えらえるが、ISM非製造業指数の雇用項目に着目することが現実的である。

 今回は指標自体の紹介に留めたが、今後はテーマを絞りより分析的な記事をつくるつもりです。


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東京ベースの投資家です。為替・債券・マクロ経済・少し学術的なことをメイントピックとしています。小学生の塾・学習情報や旅行・料理・レストラン情報といった趣味についても書いています。

学生時代は中学受験大手塾で塾講師をやっていました。また、戦略コンサル・投資銀行でのインターンや金融実務経験があります。

あくまでも趣味でやっています。皆さんの参考になればうれしいです。

東京の国立大、米国MBA卒