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マイナスとなったのは、原油価格ではなく、原油先物価格
4月20日のNY原油先物市場では、受け渡し期間が最も短い期近物である5月限が、一時▲40ドル/バレル付近まで下落した。原油先物市場の歴史上、マイナス価格の実現は初めてのことで、マーケットでは大きな話題となった。
投資信託やETFで原油先物を投資対象としているものも多く、米国の原油ETF「USオイルファンド」は新規の発行を停止、クレディ・スイスは発行するETNの価格がゼロになったと発表、中国銀行(Bank of China)は関連する投資商品の価値がゼロとなり、個人投資家に支払い義務が発生(顧客の未決済ポジションを▲266.12元/バレルで決済)。
米最大の原油ETFの動きで市場再び混乱、期先物に移す計画着手 https://t.co/TTVuDBq0zD via @business
— Tbridge (@Tbridge8) June 20, 2020
原油価格マイナスは投資するうえで大きなインプリケーションがあります。
クレディ・スイスの原油ETNが無価値に、今月初めに続き2本目 https://t.co/BCn6JZoUYr via @business
— Tbridge (@Tbridge8) June 20, 2020
原油③
原油価格の急落、中国銀行顧客に91.5億円の損失発生-金融商品投資で https://t.co/z7rY8IgUpe via @business
— Tbridge (@Tbridge8) June 20, 2020
原油②
価格決定要素:今回は在庫が重要
どの商品も、需要と供給で価格が決定。供給が需要を超えるときや時間的にズレが生じるので在庫が生じる。これが基本原則。

アメリカは、世界の生産量の16%を占めており、サウジアラビアを超えて世界1位。サウジアラビアの採掘コストはアメリカのそれよりも低い。時々、サウジアラビアが盟主であるOPEC(石油輸出国機構)が原油価格を下げているのは、アメリカの勢力拡大にチャレンジしている側面もある。
以下は、石油のサプライチェーン。日本では原油を輸入し、貯蔵⇒精製(石油からガソリンなどを作る)⇒ガソリンなど製品貯蔵⇒需要に合わせて販売(ガソリンスタンドなど)。

つまり、原油は需要のタイミングを待つために貯蔵(在庫)するキャパシティが必要なのだ。在庫があふれると当然原油供給ニーズは減るので、採掘する必要はなくなる。しかし、供給を抑える必要がわかった時には、世界中で既に採掘されているので、更に在庫が増える。
アメリカの場合:生産は国内⇒輸送はパイプライン&貨物列車
北米のパイプラインの敷設マップは以下のようになっている。シェールやオイルサンドで抽出された原油はパイプラインを通って貯蔵施設で保管され、精製設備などの各需要個所に向かう。貨物列車も使われるがコストがやや高い。青く丸で囲ったところがクッシング地区でパイプラインの多くが集積していることがわかる。今回のWTI先物価格がマイナスとなったことに大きく関わっている。

WTIって何?
WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)とは、アメリカ合衆国南部のテキサス州とニューメキシコ州を中心に産出される原油の総称。
Wekipediaより引用し一部調整
WTI先物は、ニューヨーク・マーカンタイル取引所 (NYMEX) においてNYMEX Light Sweet Crudeとして取引が行われている。1983年5月に上場され、現在は同取引所の主要な取引品としての地位を確立。WTI取引は、集油所のあるオクラホマ州クッシングで現物の受け渡しが行われる。
WTI価格は世界の原油価格の中で最も有力な指標である。実際のWTIの一日あたり産出量は100万バレルに満たないのに対し、WTI先物の一日あたり取引量は100倍の1億バレルを超え、価格の大きな変動(中でも値上がり)は世界経済に直接大きな影響を及ぼす。
つまり、WTIは、原油価格の代表で、クッシング地区で受け渡しが行われるのである(契約上)。
原因は価格決定の矛盾
しかし、このクッシング地区での取引は、アメリカ国内で産出される原油の5%程度、世界で産出される原油の1%程度しか占めない。今回、貯蔵の80%を超えるまでにキャパシティが厳しくなり、3月下旬~4月中旬までの上昇ペースでは5月には100%に到達するとの見方が広まった。

データ期間:2020/1/17~2020/6/12
では、100%に到達するとどうなるか。
原油先物市場の投資家は、金融投資家と実物投資家の2種類がおり、前者はファンドや銀行などの石油ビジネスをやっていない人達、後者は石油卸売会社や精製会社等。
先物価格は現物価格を参照し価格決定される。その名の通り、将来に現物(つまり原油)を渡す契約なので、先物の期日が来れば原油を渡す準備をするひつようがある。また、先物を買っている投資家は原油を受け取らなければならない。原油は受け取らないということが物理的にできない。国債などの証券であれば紙屑になるだけでゴミ箱に捨ててしまえば終わり。しかし、原油はその場に放置すると、勿論環境問題で捨てられない。金融投資家はどのみちその時点でつんでおり、ポジションを解消するしかない。
そして、貯蔵設備が重要に。貯蔵するキャパシティがあれば、現物を扱えるような実物投資家であればまだ何とかやりようはある。先物契約の期日に安く渡された原油を貯蔵して10日後に売却できるから。しかし、今回のケースはキャパシティオーバーとの見通しから、実物投資家も価格が0付近でもクッシング地区で引き渡される原油先物を買えない。なぜなら保管できないから。
期近の先物取引は、買い手が全くいない中、金融投資家(例:米国の原油ETF「USオイルファンド」)はポジションをアンワインド(解消しなければならず)、マイナスの価格で取引されるという結果になった。つまり、「お金払いますから、買って下さい。」状態。
これがことの顛末。背景にあるロジック。今は、稼働率下がっているが、テキサス在庫が代わりに増えており、クッシング地区のキャパシティが注目されないようにしているとの噂もある。
このケースから学ぶべきこと
我々は、常に本質を見なければならない。価格が上がっているから、下がっているから、という理由で売買していいのは超短期だと考える。投資しようとするならば、その商品の価格決定ロジックは少なくとも自分が納得するレベルまで勉強すべきだ。FXやビットコインでも同様なことが言えると思う。ネットなんかで、こうすれば勝てると書いているものもある。でも、絶対に勝てるリスク性投資なんか存在しない。
テクニカル分析は否定しない、しかし価格決定ロジックは飛ばさない方がいい。私は、わかっていると思っている(ただ思ってるだけかもしれないが。。)ものしか投資しない。そうあるべきだとは言わない、投資はお金を持つ者の自由だ。
しかし、増やしたいなら、賢くなるべきだし、細心の注意を払うべきだ。
皆さんは自分が投資している物の価格がなぜ上下するか理解していますか?


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